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心の疲れに気づく―「まだ大丈夫」と思う前に立ち止まる勇気を―

心の疲れは静かに進行する職場リスク

厚生労働省の調査(2023年)によると、「強いストレスを感じる」労働者は53.3%
一方で、「自分のストレスサインを把握していない」と回答した人も約4割にのぼります。

多くの人が「仕事だから」「みんな頑張っているから」と無意識に心身の限界を超え、
結果として、集中力低下・ミス増加・休職へとつながるケースも少なくありません

そこで今、企業と個人の両面から「セルフケア」を支える仕組みづくりが求められています。
本記事では、厚生労働省のガイドラインをもとに、
①心の疲れに気づくサイン
②個人ができるセルフケアの方法
③企業ができる具体的支援策
を紹介します。

心の疲れに気づく3つのサイン

① 身体のサイン

  • 睡眠の質が悪い(寝つき・途中覚醒・早朝覚醒)

  • 食欲の低下や過食

  • 慢性的な疲れ、頭痛、肩こり、胃痛

心の疲労はまず身体に現れます。特に「週末でも疲れが抜けない」「休日明けが怖い」と感じたら注意信号です。

② 感情のサイン

  • イライラや焦りが強くなる

  • 不安感や無気力、感情の起伏が激しくなる

  • 小さなことに涙が出る

これらは心の防御反応であり、休息を求めているサインです。

③ 行動のサイン

  • ミス・遅刻・欠勤の増加

  • 報告や連絡を避ける

  • 趣味や人付き合いを避けるようになる

「以前の自分と違う行動」が見られたら、早期のセルフケアが必要です。


個人ができるセルフケア ― 科学的根拠に基づいた実践法

① 「自分の心の温度」を測る

毎日または週1回、「気分を10点満点で数値化」してみましょう。
5点を下回る状態が2週間以上続く場合は、医療機関や産業医への相談が推奨されます。

また、日記アプリやスマートウォッチを活用して睡眠・活動量・感情の変化を可視化するのも効果的です。
近年はAppleの「マインドフルネスアプリ」や「こころの耳」オンラインチェックが簡便で実用的です。


② 1日10分の“マイクロリセット”習慣

厚労省の研究によると、「短時間でもこまめに休息を取る」ことが集中力維持とストレス軽減に有効と報告されています。

実践法の例:

午前・午後でそれぞれ10分、PCやスマホから離れる
呼吸法(4秒吸って、6秒吐く)を3分続ける
窓の外を眺める、植物を触るなど感覚リセットを意識する

この「マイクロリセット」を習慣化することで、自律神経のバランスが整い、疲労蓄積を防ぎます。


③ “3つのバランス”を整える

メンタル不調の予防には、睡眠・食事・運動の3要素が基盤です。

項目 推奨行動 効果
睡眠 7時間前後、就寝前1時間はデジタル断ち セロトニン分泌の正常化、集中力維持
食事 朝食でたんぱく質と糖質を摂取 血糖の安定・ホルモンバランス調整
運動 1日15〜30分のウォーキングまたはストレッチ ストレスホルモン(コルチゾール)低減

無理にすべてを完璧に行う必要はありません。
「今週は睡眠だけ」「昼食をゆっくり味わう」など、ひとつの生活改善を意識的に行うことが継続の鍵です。


企業ができるセルフケア支援 ― “自律と支援”を両立させる職場づくり

① 「気づきの文化」をつくるコミュニケーション設計

企業が最初に取り組むべきは、「不調を話せる空気」の醸成です。
そのために有効なのが、以下の取り組みです。

  • 管理職研修で「傾聴」スキルを養う(非評価的に話を聴く訓練)

  • 1on1ミーティングで「業務+気分」の両面を確認

  • 社内チャットで「最近どう?」といったカジュアルな声かけ文化を育てる

「話してもいい雰囲気」は、組織全体の心理的安全性を高め、早期発見につながります。


② 社内ツールでセルフチェックを日常化する

厚労省が推奨するセルフケア推進策の中でも、デジタルツールの導入は近年特に注目されています。

例:

  • 社員ポータルで「週1セルフチェック(気分スコア・睡眠時間)」を匿名入力

  • 高ストレス傾向が見られた場合、産業保健スタッフに自動通知

  • 健康経営アプリ(例:FiNC、Carelyなど)と連携して見える化

このような“セルフモニタリングの仕組み”を導入することで、社員が自発的に自分の状態を把握できるようになります。


③ メンタルサポート体制の多層化

従業員が相談しやすいよう、支援窓口を「複数ルート」で整備することが効果的です。

支援ルート 内容 メリット
社内産業医・保健師 面談・復職支援・医療連携 医学的助言が得られる
EAP(外部カウンセラー) 匿名相談・面談・電話サポート 利用ハードルが低い
ピアサポート制度 社員同士の相談・共感共有 若手社員への安心感

また、産業医や人事部が連携して、**「困ったときの相談ルート一覧」**を明示することで、
従業員が一人で抱え込まない体制が整います。


まとめ:セルフケアは“個人努力”ではなく“職場の文化”

心の疲れを防ぐには、個人の気づきだけでなく、企業の支援体制が不可欠です。
厚生労働省のガイドラインでも、

「労働者自身のストレス対処能力の向上と、職場環境の改善は車の両輪である」
と明記されています。

社員一人ひとりが自分の状態を観察し、
企業がそれを後押しする環境を整えることで、メンタルヘルス不調の予防は確実に進みます。

「頑張り続ける」ではなく、「整えながら働く」。
それが、これからの健康経営におけるセルフケアの本質です。


参考文献

  • 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

  • 厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策」

  • 厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」 (https://kokoro.mhlw.go.jp)

  • WHO「Guidelines on Mental Health at Work」

  • 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所「ストレスと休息に関する研究」(2022)

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