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記録と判断プロセスの重要性

産業医実務対応シリーズ②

従業員から「休職したい」と訴えがあった際、初動で安全確保と産業医面談につなげることが第一歩です。

しかし実務上、次に必ず問題になるのが

・どこまで記録を残すべきか

・主治医の診断書と産業医判断をどう整理するか

・本人の希望と会社制度をどうすり合わせるか

・後から揉めないために企業が整えるべき型とは何か           という「判断プロセス」の部分です。

休職対応は感情的な問題になりやすく、企業の説明責任や安全配慮義務も問われます。
だからこそ重要なのは、属人的な対応ではなく再現性ある型として整備することです。

本記事では、産業医としての視点から「揉めない休職対応」を実現するための記録と判断の基本を解説します。


休職対応で揉める原因は「判断の曖昧さ」である

休職対応が後から問題化する典型パターンは、

  • 本人は「会社に休職を拒否された」と感じている

  • 会社は「制度上必要な手続きを説明しただけ」と考えている

  • 主治医は「休養が必要」と書いている

  • 産業医は「就業配慮で可能」と判断している

というように、立場ごとの判断が整理されないまま進むケースです。

ここで重要なのは、休職対応には3つの軸があるということです。

  1. 医療的判断(主治医)

  2. 就労可否判断(産業医)

  3. 制度運用判断(企業・人事)

この役割分担を明確にしないと、必ずズレが生じます。


記録は「企業と従業員を守る安全装置」である

記録というと企業側の防衛のように聞こえるかもしれませんが、本質は違います。

記録は、

  • 本人の訴えを正確に残す

  • 適切な支援を行った証拠となる

  • 復職支援の基礎資料になる

  • 後からの誤解を防ぐ          という意味で、従業員にとっても重要です。

特に大企業では担当者交代も起こるため、「口頭だけで進めた対応」は必ず破綻します。


どこまで記録を残すべきか(最低限の項目)

企業が最低限残すべき記録は以下です。

①訴えの内容(本人の言葉)

「休職したい」「眠れない」「限界」など
※評価ではなく事実として記載

②面談日時と同席者(誰が、いつ対応したか)

③確認した事実

  • 不調の経過

  • 業務負荷

  • 勤怠状況

  • 安全リスクの有無

④会社として提示した対応

  • 産業医面談の案内

  • 医療受診勧奨

  • 就業配慮の選択肢

⑤次回アクション

  • 面談予定

  • 必要書類

  • フォロー担当者

ここで重要なのは「診断を書く」のではなく、あくまで企業としての事実記録に徹することです。


診断書と産業医判断をどう整理するか

休職対応で混乱しやすいのが診断書の扱いです。

主治医の診断書にはしばしば「○ヶ月の休養を要する」と書かれます。

しかし産業医の役割は診断ではなく、就労可能性の評価(就業判定)です。

つまり企業が整理すべきは次の構造です。

  • 主治医:治療上の休養必要性

  • 産業医:職場での就業可否判断

  • 会社:制度上の休職・配慮決定

主治医が「休養」と書いても、職場調整で就業可能な場合もあれば、逆に診断書が軽くても職場では危険な場合もあります。

企業として重要なのは、診断書を絶対視するのではなく、産業医判断を組み合わせて決定することです。


本人の希望と会社制度をどうすり合わせるか

休職対応では以下のようなケースが多く見られます。

  • 本人は「すぐ休みたい」

  • 会社は「制度に沿った手続きが必要」 というギャップが生まれます。

このとき企業が取るべき姿勢は希望を否定せず、制度として整理することです。

例:「休職を否定しているのではありません。制度上、産業医面談と診断書確認を経て正式に決定します。その間は安全確保のため就業配慮を行います。」

この説明があるだけでトラブルは激減します。


後から揉めないために企業が整えるべき“型”

休職対応を属人的にしないために、企業が整備すべき基本型は以下です。

型① 初動面談 → 記録 → 産業医面談

(最初の流れを固定化する)

型② 判断の分離

  • 医療判断(主治医)

  • 就業判断(産業医)

  • 制度判断(会社)   を混同しない

型③ 文書化された説明

  • 休職制度の流れ

  • 必要書類

  • 復職プロセス
    を事前に共有する

型④ 復職まで見据えた支援

休職はゴールではなく復職支援のスタートである


まとめ:休職対応は「結論」ではなく“判断プロセス”で決まる

休職対応で企業が最も注意すべきなのは、休職させるか否かという結論そのものではありません。
本当に重要なのは、その判断に至るまでのプロセスが整理され、説明可能な形で運用されているかです。

休職対応が後から揉めるケースの多くは、

  • 判断基準が曖昧だった

  • 記録が残っていなかった

  • 主治医と産業医の役割が混同されていた

  • 本人への説明が不足していた

  • 担当者ごとに対応が変わっていた

という「型の不在」から生じます。

だからこそ企業が整えるべきポイントは明確です。


企業が押さえるべき実務の基本5点

①訴えは必ず事実として記録する
本人の言葉、面談日時、確認事項、会社の対応、次のアクションを残すことが基本です。
記録は企業防衛ではなく、従業員支援と信頼維持の土台になります。

②判断軸を3つに分けて整理する
休職対応:

主治医=医療的判断産業医=就労可否判断企業=制度運用判断

という役割分担があります。混同すると必ず混乱します。

③診断書を絶対視せず、産業医評価と組み合わせる

④本人の希望を否定せず、制度として説明する

⑤属人的対応を避け、“企業の型”として運用する
初動→産業医面談→判断→制度説明→復職支援
この流れを標準化することが、大企業に求められる産業保健体制です。


休職はゴールではなく、復職支援のスタートである

休職対応は単なる制度処理ではありません。
適切な初動と判断プロセスが整えば、

  • 従業員は安心して回復に向かえる

  • 復職後の再発が減る

  • 職場の信頼が守られる

  • 企業の安全配慮義務が果たされる

という成果につながります。

休職対応とは、企業の危機管理であると同時に、最も重要な産業保健活動の一つです。


次回(シリーズ③)では、実務で最も難しい論点である
「主治医・産業医・会社の連携:情報共有のポイントと注意点」
を具体的に解説します。

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