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昼休みのセロトニン補給 ― Lunch time strategy

「昼食後、眠くて集中できない」「午後になるとイライラしやすい」――そんな経験、ありませんか?
その原因の一つが、脳内で「幸福ホルモン」とも呼ばれる セロトニン の不足です。

セロトニンは気分の安定、集中力、ストレス耐性に関わる神経伝達物質です。しかし、長時間の室内勤務や人工光下では分泌が低下しやすく、午後には「脳のガス欠」状態に陥りやすいことが知られています(Young & Leyton, 2002)。

ここでは、忙しいビジネスパーソンでもできる「昼休みのセロトニン補給3ステップ」を、科学的根拠に基づいて紹介します。


セロトニンが「午後の安定と集中」を生むメカニズム

セロトニンは、脳幹の縫線核から分泌され、前頭前野や海馬などの領域で思考・感情・行動を安定化させます。
その作用は「ストレスを和らげる」だけでなく、「次の行動に切り替える」ことにも重要です。

Jenkinsら(2019)の研究では、日中に自然光を浴びるグループは、そうでないグループに比べてセロトニン活性が高く、午後の集中力が持続しやすいことが示されています。つまり、昼休みは脳を再起動させるセロトニンタイムなのです。


昼休みでセロトニンを回復させる3つのステップ

ステップ①:外に出て「光を浴びながら歩く」

セロトニンは、太陽光とリズム運動によって同時に活性化します。
昼休みに5〜10分でも外を歩くと、網膜から脳に光刺激が入り、セロトニン神経を直接刺激します。
ポイントは、「スマホを見ない」「リズミカルに歩く」こと。
一定のテンポで腕を振るリズム運動と、自然光の刺激が重なることで、セロトニン分泌が効率的に促されます。
エレベーターを避けて階段を使う、オフィス街を一周するなど、無理なく続けられる習慣に変えると効果的です。


ステップ②:深呼吸+姿勢リセットで「自律神経を整える」

セロトニン神経は呼吸のリズムとも連動しています。
仕事中の姿勢の崩れや浅い呼吸は、セロトニン活動を鈍らせ、交感神経の緊張を高めます。
昼休みには、次のような「呼吸リセット」を行いましょう:

  1. 背筋を伸ばし、肩を軽く後ろに引く

  2. 鼻から4秒かけて息を吸う

  3. 口をすぼめて8秒かけて息を吐く(できれば2〜3回繰り返す)

このリズム呼吸は、脳幹のセロトニン神経に一定の周期刺激を与え、自律神経を安定化させます。
また、姿勢を整えることで胸腔が広がり、呼吸効率が上がり、脳への酸素供給が向上。
午後の集中力と気分の安定を助けます。


ステップ③:「感情の切り替え」を意識したマインドリセット

セロトニンは「思考」よりも「感情の状態」に強く反応します。
そのため、昼休みに感情のリセットを行うことが、午後のパフォーマンス維持に直結します。
おすすめは、「五感を使って今の瞬間を感じる」マインドフルネス的アプローチです。

  • コーヒーやお茶を飲むとき、香りと温度に意識を向ける

  • 外の空気の温かさや風の感触を感じる

  • 目を閉じて周囲の音(人の声、鳥の声、街の音)を意識する

これらの行為は、脳を「今ここ」に戻し、過去や未来の思考を遮断します。
結果的にセロトニン神経系の過剰なストレス反応が沈静化し、午後に再び集中モードへ切り替えやすくなります。


昼の15分が午後の自分を変える

セロトニンを意識的に補給する昼休みは、単なる「休憩」ではなく、脳のリセット戦略です。
短時間でも、

  • 光を浴びながら歩く(視覚とリズムの刺激)

  • 呼吸と姿勢を整える(自律神経の安定)

  • 五感を使って今を感じる(感情のリセット)

この3つを実践するだけで、午後の集中力・判断力・感情の安定性が大きく変わります。
「午後にもうひと頑張り」ができる人は脳を整える習慣を持っている人です。


まとめ ― 昼休みを「脳のメンテナンス時間」に変える

セロトニンは、ストレス社会を生き抜くうえで最も重要な神経伝達物質のひとつです。
昼休みの15分を「光」「呼吸」「五感リセット」に使うことで、

  • 午後の気分が安定し、

  • 対人関係のストレスに強くなり、

  • 集中力と創造性が自然に戻る。

毎日積み重ねれば、それは単なる休憩ではなく、パフォーマンスを高めるルーティンになります。


参考文献

  • Young SN, Leyton M. The role of serotonin in human mood and social interaction. The Lancet. 2002. Link

  • Jenkins TA, Nguyen JC, Polglaze KE, Bertrand PP. Influence of tryptophan and serotonin on mood and cognition with a possible role of the gut-brain axis. Nutrients. 2019. Link


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