上司との面談、部下との1on1、取引先との商談――。
会話の中で、相手が急に早口になったり、語気が強まったりする瞬間はないでしょうか。
それは、相手の脳内でノルアドレナリン(ノルアド)が急上昇しているサインです。
ノルアドは「覚醒・警戒・防御」を司る神経伝達物質。
人は緊張や不安、評価への恐れを感じると、この物質が放出され、思考よりも防衛反応が優先されます(Aston-Jones & Cohen, 2005)。
この状態では、どんなに正論を伝えても届きません。
だからこそ、相手のノルアドを抑制し、「安心して話せる場」をつくる傾聴スキルが必要なのです。
ノルアドが高まると「言葉の意味」が届かなくなる
ノルアドが過剰に分泌されると、脳の前頭前野(思考・判断を担う部分)が抑制され、扁桃体(感情処理を担う部分)が優位になります(Arnsten, 2009)。
その結果、相手は以下のような状態に陥ります:
つまり、ノルアドが高まった相手には論理より安心感が必要なのです。
どれだけ正しい指摘でも、相手の脳が「危険」と判断している限り、受け入れられません。
傾聴の目的は、相手の脳に「安全信号」を送ることにあります。
ノルアドを鎮める3つの傾聴テクニック
① 「沈黙を怖がらない」
多くの人は、沈黙が続くと焦って言葉を埋めようとします。
しかし、脳科学的にはこの間こそがノルアド抑制に有効です。
人は話した直後、脳内で感情処理と再評価を行う時間が必要です。
相手が考える間を奪わず、3〜5秒の沈黙を意図的に置くことで、ノルアドの高ぶりが自然に落ち着いていきます。
この沈黙は「受け止めてもらえた」という非言語的サインにもなり、安心感を増幅させます。
② 「繰り返し+要約」で“安全確認”を伝える
ノルアドが上がっている相手は、話が逸れたり、内容をうまく整理できなかったりします。
そのときに効果的なのが、「繰り返し」と「要約」を交えた返答です。
例
「なるほど、急な変更が多いことが一番ストレスなんですね」
「つまり、“自分の意見を聞いてもらえない感じ”が残っていると」
このように相手の言葉を一度翻訳して返すと、脳は「理解された」と認識し、警戒が解けます。
ノルアドの過剰分泌が抑えられ、前頭前野の活動が再び優位になります。
③ 「視線・うなずき・声のトーン」で非言語的安全をつくる
会話において、言葉の内容以上に相手の脳に影響を与えるのが非言語情報です。
ノルアドは、視覚・聴覚刺激にも敏感に反応します。
したがって、
視線を合わせすぎず、時折外す(威圧感を避ける)
うなずきをゆっくりとリズミカルに(相手の話と同調)
声のトーンを低めに、速度をやや落として話す
これらの工夫で、相手の生理的な興奮レベルが下がり、セロトニン(安心の神経伝達物質)が優位に働き始めます。
まさに、「声と姿勢で脳に安全信号を送る」ことが傾聴の本質です。
ノルアド抑制がもたらす信頼の脳内メカニズム
ノルアドが落ち着くと、前頭前野が再び活性化し、論理的思考と共感処理が戻ります。
この状態では、相手は次のような反応を示します。
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自分の感情を言語化できるようになる
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相手の意見を受け入れやすくなる
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物事を「協力的に」考え始める
つまり、傾聴によって相手のノルアドを抑えることは、単なる“聞き上手”を超え、相手の脳を信頼モードに切り替える行為なのです。
これはマネジメントや営業だけでなく、職場のすべての人間関係に応用できます。
まとめ ― 聞く力は「脳を整える力」
傾聴とは、相手を変えるためのテクニックではなく、相手のノルアドを整える科学的プロセスです。
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沈黙でノルアドを自然に鎮め、
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繰り返しと要約で安心感を送り、
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非言語の同調で脳に安全を伝える。
この3つを意識するだけで、会話の雰囲気が変わり、相手の言葉が深まり、信頼関係が強まります。
「聞く」という行為は、最もシンプルで、最も強力なストレスマネジメントなのです。