心療内科/産業医・労働衛生コンサルタント/アルコール診療:医師が発信

本人が「飲酒は問題ない」と言うとき、会社はどう対応すればよいのか

「お酒はそんなに飲んでいません」

「自分では問題ないと思っています」

「仕事には影響していません」

飲酒の影響が疑われる社員と面談したとき、このように言われることがあります。

会社側としては、

遅刻が増えている。

欠勤も続いている。

仕事上のミスも目立っている。

だからこそ、

「飲酒が影響しているのではないか」

と考えている。

しかし、本人は問題を認めていない。

このような状況になると、管理職や人事は、

「本人が認めてくれないと、何も進められないのではないか」

と感じることがあります。

しかし、必ずしもそうではありません。


会社が「飲酒問題を認めてもらう」必要はない

まず大切なのは、

本人に「自分は飲酒に問題がある」と認めてもらうことを、会社対応の前提にしない

ということです。

本人と会社では、見えているものが違います。

本人は、

「自分は普通に飲んでいるだけ」

と考えているかもしれません。

一方、会社は、

「最近、遅刻やミスが増えている」

という変化を見ています。

ここで、

会社
「あなたは飲みすぎです」

本人
「そんなことはありません」

という話を続けても、議論が平行線になることがあります。

会社が対応したいのは、

本人の飲酒に対する自己評価

ではなく、

職場で起きている問題

です。


「飲酒の評価」と「職場で起きている事実」を分ける

例えば、

「あなたにはアルコールの問題があります」

と伝えると、本人は反論しやすくなります。

一方で、

「この1か月で遅刻が4回ありました」

「当日の欠勤が3回ありました」

「以前と比べて、ミスが増えています」

「周囲による修正やフォローが増えています」

であれば、これは職場で確認できる事実です。

この違いはとても重要です。

会社が最初に扱うのは、

診断や飲酒量の評価ではなく、仕事上の事実(=労務提供)

です。


「問題ない」と言われたとき、すぐに説得しない

本人から、

「仕事には影響していません」

と言われたとします。

このとき、

「いや、影響しています」

とすぐに否定すると、対立になりやすくなります。

それよりも、

「では、会社として確認している事実を一緒に見てみましょう」

という姿勢の方が整理しやすいことがあります。

例えば、

「先月は遅刻がありませんでしたが、今月は4回ありました」

「この2件について期限遅延がありました」

「以前にはなかった修正が増えています」

と、具体的に共有します。

重要なのは、

本人の認識を否定することではなく、会社側が見ている事実を共有すること

です。


目的は「認めさせること」ではなく、「変化を確認すること」

アルコールの問題では、

「本人に問題を認めてもらわないと治療につながらない」

と考えることがあります。

医療の場では、本人の認識や動機づけは重要です。

しかし、企業がやるべきことは少し違います。

会社の目的は、

本人に「私はアルコールに問題があります」と言わせること

ではありません。

会社として必要なのは、

職場で起きている問題を確認し、必要な対応をとること

です。

例えば、

遅刻が続いている。

欠勤が増えている。

安全性に不安がある。

業務遂行に明らかな変化がある。

という場合には、本人が飲酒問題を認めているかどうかとは別に、企業として対応できます。


「お酒の話」をしなくても対応できることはある

たとえば、本人が飲酒との関連を強く否定しているとします。

その場合でも、

「飲酒が原因かどうか」

をその場で決める必要はありません。

会社としては、

「今の勤怠状況は改善が必要です」

「この業務について、安全性を確認する必要があります」

「現在の状態で継続勤務できるか、産業医に相談しましょう」

という対応ができます。

つまり、

原因が何であれ、仕事上の問題には対応できる

ということです。

ここを分けて考えると、会社側も動きやすくなります。


会社は「診断」しなくてよい

本人が問題を認めていないと、

「では会社として本当にアルコールの問題なのか確認した方がよいのでは」

と考えることもあります。

しかし、管理職や人事が診断をする必要はありません。

企業が確認したいのは、

現在の状態で安全に働けるか

仕事を安定して遂行できているか

という点です。

健康上の評価が必要であれば、産業医や医療機関につなげればよいのです。

会社が無理に、

「依存症かどうか」

を判断しようとすると、役割が混乱します。


「本人は問題ないと言っている」だけで終わらせない

一方で、

「本人が問題ないと言っているので、会社としては何もできません」

で終わってしまうのも適切ではありません。

もし、

遅刻や欠勤が増えている。

業務の質が落ちている。

安全上の懸念がある。

周囲の負担が増えている。

という事実があるのであれば、それは職場の課題です。

本人が飲酒との関連を否定していても、

仕事への影響があるなら、会社として確認し続ける必要があります。


人事・管理職が確認したい3つのこと

本人と認識が一致しない場合、次の3つに分けて整理すると分かりやすくなります。

1.会社が確認している事実

遅刻。

欠勤。

ミス。

期限遅延。

安全上の懸念。

周囲への負担。

まず、何が起きているかを具体的にします。

2.本人の認識

本人はどう捉えているのか。

「問題ない」

「一時的なもの」

「仕事とは関係ない」

など、本人の見方を確認します。

ここでは、正しい・間違いと判断する必要はありません。

3.仕事上、何を改善する必要があるのか

会社として必要なのは、

遅刻を減らすこと。

安定して出勤すること。

安全に業務を続けること。

期限や品質を守ること。

などです。

ここを明確にしておくと、飲酒について意見が一致していなくても、仕事上の対応は進められます。


「飲酒を認めるかどうか」と「就業上の判断」は別

これはとても重要です。

本人が、

「自分は飲酒に問題ない」

と考えていたとしても、

会社として、

「現状では安全性に懸念がある」

と判断することはあり得ます。

逆に、

本人が、

「最近飲みすぎています」

と自覚していても、

仕事上の問題が直ちに起きているとは限りません。

つまり、

本人の飲酒に対する自己認識

と、

会社の就業上の判断

は、同じものではありません。

ここを混同しないことが大切です。


産業保健につなぐタイミング

例えば、

勤怠の乱れが続いている。

仕事上のミスが増えている。

体調面の変化も見られる。

安全性への不安がある。

という場合には、産業保健へつなぐことを考えます。

本人に、

「アルコール問題があるから産業医面談です」

と伝える必要はありません。

むしろ、

「最近の勤怠や体調、仕事上の変化について、一度産業医にも相談しましょう」

という形でもよいでしょう。

企業が見えているのは仕事上の変化です。

その背景に健康上の問題があるかどうかを、必要に応じて専門職につなげて確認します。


「認めない人」にどう対応するか、ではなく

「本人がアルコール問題を認めない」

という言葉を聞くと、

どうすれば認めてもらえるのか。

どう説得すればよいのか。

と考えがちです。

しかし、会社にとって重要なのはそこではありません。

まず考えたいのは、

本人が問題を認めているかどうかにかかわらず、職場で何が起きているのか

ということです。

そして、

その事実を共有する。

必要な改善を伝える。

健康上の懸念があれば産業保健につなぐ。

安全や就業上の問題があれば、企業として対応する。

これらは、本人に「自分は飲酒に問題がある」と認めてもらわなくても進めることができます。


会社が扱うのは、「本人の飲酒観」ではなく「仕事への影響」

アルコールの問題では、本人と会社の認識が一致しないことがあります。

しかし、その認識差を埋めることだけに時間を使う必要はありません。

会社が確認できるのは、

職場で起きている事実

です。

その事実をもとに、

今のまま仕事を続けられるのか。

どのような改善が必要なのか。

健康上の支援が必要なのか。

を考えていきます。

本人の飲酒に対する評価と、会社の仕事上の評価を分ける。

それだけでも、対応はかなり整理しやすくなります。


Alcohol × Work|JIN MEDOC

JIN MEDOCでは、アルコールの問題を本人の飲酒だけで判断するのではなく、健康・仕事・職場との関係から考えます。

企業が確認できる事実と、医療が評価する領域を分けながら、実際の職場で必要な対応を考えていきます。

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