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休業者の職場復帰支援―「戻す」ではなく「支える」復職プロセスへ―

復職は“ゴール”ではなく“再スタート”

メンタルヘルス不調による休業者は増加傾向にあります。
厚生労働省の調査(2023年)によると、精神疾患による労災認定件数は過去最多の710件
また、企業の約4割が「メンタル不調者の復職支援に課題を感じている」と回答しています(こころの耳調査)。

実際に、復職後の再休職率は3〜4割ともいわれ、その多くは復職判断や業務負荷の調整が十分でなかったケースです。
復職は会社に戻すことが目的ではなく、「再び働ける状態を維持できるよう支える」ことが真の目的です。

本記事では、厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」をもとに、段階的支援の流れと、産業医がどのように復職可否を評価しているのかを解説します。


産業衛生の観点から見た現状と法制度

厚生労働省は、メンタルヘルス不調者の復職を5段階で進めることを推奨しています(2017年改訂版「職場復帰支援の手引き」)。
この枠組みは、「医学的回復」→「職場適応」→「定着支援」のプロセスで構成されており、企業・主治医・産業医が連携して支援を行う仕組みです。

復職支援の目的は、

「心身の健康を保ちながら、安定して職務を遂行できる状態に戻すこと」
であり、単なる「復帰日を決めること」ではありません。

さらに、労働契約法第5条では「安全配慮義務」が定められています。
企業は労働者の状態に応じて、勤務時間・業務内容・環境を柔軟に調整する責任を負っています。
これらを適切に判断する上で、産業医の医学的評価が重要な基盤となります。


実務への応用 ― 段階的復職支援と合理的配慮

① 復職支援の5ステップ

厚労省の手引きに基づく、段階的な支援の流れは次の通りです。

1:病気休業開始と治療・療養
 主治医の治療方針に従い、回復を最優先。企業は焦らず、療養情報の把握に留める。
2:主治医による復職可能の判断
 体力・集中力・睡眠など、生活リズムの安定が確認できた段階で「就労可能」と判断される。
3:産業医面談による最終評価
 主治医の意見を踏まえ、職場の実情を加味して「業務遂行が可能か」を判断。
4:復職計画の策定と試し出勤
 短時間勤務・限定業務からスタートし、2〜4週間かけて勤務負荷を段階的に戻す。
5:定着支援とフォローアップ
 復職後3〜6か月間は再発リスクが高いため、定期面談で状態を確認。

この5段階を踏むことで、急な復帰や再休職を防ぎ、持続的な就労につなげることができます。


② 合理的配慮の具体例

復職期には、働く環境や業務の柔軟な調整が不可欠です。
合理的配慮の実例として、以下のような取り組みが挙げられます。

配慮の対象 内容の一例
勤務時間 時短勤務、週3〜4勤務、早退や遅出への柔軟対応
業務内容 対人業務の一時制限、報告業務中心への一時移行
職場環境 席の配置変更、静かなエリアでの作業
チーム対応 上司・同僚への説明会、支援ルールの明確化

重要なのは、本人の状態と希望、そして業務上の実現可能性の3点をすり合わせることです。
この調整役を担うのが、産業医です。


産業医が行う復職判断と就労評価のプロセス

① 医学的回復の評価

産業医は、主治医の意見書だけでなく、本人面談を通じて以下の観点から回復状況を確認します。

評価項目 具体的観察点
症状の安定度 抑うつ・不安症状の消失または軽減、服薬の副作用有無
生活リズム 睡眠・食事・通勤練習など、生活習慣が安定しているか
体力・集中力 通勤や作業を継続できる体力、集中持続時間(例:2〜3時間以上)
ストレス耐性 職場の刺激(人間関係・業務プレッシャー)への反応

この評価により、「職場復帰の準備が整っているか」を判断します。


② 就労能力(ワーク・ケイパビリティ)の評価

次に、実際の職務遂行に必要な就労能力を評価します。
産業医は面談で以下の質問を行い、実務への適応力を把握します。

・通勤や出社準備に支障はないか
・業務中の集中持続時間・疲労感の程度
・上司・同僚とのコミュニケーション不安はあるか
・再発への不安や自己管理の見通しはどうか

これらを基に、「通常勤務」「短時間勤務」「業務制限付き」などの復職形態を提案します。
判断に迷う場合は、主治医と直接情報交換を行い、職場で実現可能な範囲に落とし込むのが産業医の専門性です。


③ 職場受入れの評価と調整

産業医は個人だけでなく、「職場の受け入れ体制」も併せて評価します。
たとえば、

  • 業務負荷を調整できるチーム体制があるか

  • 上司が支援的に関われるか

  • 他の従業員への影響(不公平感・誤解など)が生じないか
    を確認し、必要に応じて人事部門に改善を提案します。

特にメンタル不調では、職場側の理解度が再発防止のカギです。
産業医は本人と職場の間をつなぎ、「安心して働ける復帰環境」を整える役割を担います。


まとめ:医学と職場をつなぐ「復職評価」という専門技術

休業者の復職判断は、単なる「医療判断」ではなく、医学的妥当性と職場実現性のバランスを取る評価行為です。
産業医は、主治医・人事・上司の間に立ち、

  • 回復度を見極める医学的視点

  • 業務適応を判断する職場理解

  • 本人の意思と不安を受け止める対話力
    を兼ね備えた「総合的評価者」として機能します。

復職支援の成功とは、本人が再び職場に戻ることではなく、安心して働き続けられる状態を維持できること
そのためには、企業と産業医が連携し、段階的な支援と合理的配慮を両立させることが不可欠です。
復職支援は“戻す”ことではなく、“支え続ける”こと――それが産業衛生の基本理念です。


参考文献

  • 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(2017)

  • 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

  • 厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策」

  • WHO「Guidelines on Mental Health at Work」(2022)

  • 厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」 (https://kokoro.mhlw.go.jp)

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