心療内科/産業医・労働衛生コンサルタント/アルコール診療:医師が発信

「報告が遅い社員」に報告を早くするよう伝えても、なぜ改善しないのか

「問題が起きたら、早めに報告してください」

管理職であれば、一度は部下に伝えたことがある言葉ではないでしょうか。

ところが、数週間するとまた同じことが起きます。

期限直前になって、

「実は、まだ終わっていません」

と報告される。

取引先から問い合わせが来て、初めて問題が起きていたことを知る。

上司から確認してみると、

「もう少し自分で何とかできると思っていました」

と言われる。

そこで改めて、

「もっと早く報告してください」

と伝えます。

本人も、

「分かりました。次から気をつけます」

と答えます。

それでも、また同じことが起きる。

こうした経験をすると、

「何度言えば分かるのだろう」

と感じてしまうのも自然なことです。

しかし、ここで一つ考えてみたいことがあります。

本人は本当に、

「報告は早くした方がよい」ということを知らないのでしょうか。


「報告が遅い」という結果は同じでも、そこまでの過程は違う

例えば、4人の社員が同じように報告を遅らせていたとします。

表面に見える問題は、全員同じです。

「上司への報告が遅い」

しかし、その背景まで見てみると、まったく違うことがあります。

1.「自分で解決してから報告すべき」と考えている

仕事で問題が起きた。

本人も、そのことには気づいています。

ただ、

「こんなことで上司に相談するのはよくない」

「まず自分で解決策を考えてから報告すべきだ」

「もう少し頑張れば自分で何とかできる」

と考えています。

その結果、時間だけが過ぎていきます。

本人としては、報告を怠っているつもりではありません。

むしろ、

「自分で責任を持って仕事を進めようとしている」

可能性すらあります。

ところが、上司から見ると、

「なぜもっと早く相談しなかったのか」

となります。


2.どのタイミングで報告すればよいのか分からない

「何かあったら報告してください」

と言われても、

どの程度の“何か”なら報告すべきなのか

が分からない人もいます。

30分遅れたら報告するのか。

半日遅れたら報告するのか。

期限に間に合わないことが確定してからなのか。

少し怪しい段階で報告するのか。

本人には、その基準がありません。

そのため、

「もう少し様子を見よう」

を繰り返します。

結果として、上司からすると「遅すぎる」タイミングで報告が来ます。

この場合に、

「次から早めに報告してください」

と伝えても、

本人の中の**“早め”の基準が変わっていなければ、同じことが起きる**かもしれません。


3.  そもそも「遅れている」ことに気づいていない

もう一つあります。

本人が、

自分の仕事が遅れていること自体を十分に認識できていない

ケースです。

例えば、本人は期限まで残り3日あると思っています。

しかし実際には、

資料作成だけでなく、

上司確認
→ 修正
→ 関係部署確認
→ 最終提出

まで必要です。

本人は「まだ3日ある」と考えている。

上司は「もう今日相談がないと間に合わない」と考えている。

この認識差があると、

本人にとっては報告が遅れているつもりがなくても、上司から見ると完全に手遅れになっています。

この場合、問題は「報告しようとしないこと」だけではありません。

仕事全体の見通しの立て方にも問題がある可能性があります。


4.悪い報告をすること自体に抵抗がある

仕事が予定どおり進んでいない。

失敗してしまった。

依頼されたことが分からない。

こうしたことを上司に伝えることに、強い抵抗を感じる人もいます。

「能力がないと思われるかもしれない」

「怒られるかもしれない」

「評価が下がるかもしれない」

と考えます。

そのため、

もう少し進んでから。

何とか取り戻してから。

解決策を用意してから。

と、報告を先送りしてしまいます。

そして、問題が大きくなってから初めて報告します。

本人からすると、

「報告しなかった」のではなく、「報告できる状態になるまで待っていた」

のかもしれません。


5.複数の仕事が重なると、報告そのものが抜ける

本人に報告する意思があっても、仕事が重なると報告が抜ける場合もあります。

朝はA案件。

途中でB案件の依頼。

そこにチャットが入り、会議があり、さらにC案件の期限変更が入る。

本人は目の前の仕事を処理することに集中します。

その結果、

「上司への報告」

というタスクそのものが抜け落ちます。

この場合、

「報告の重要性を理解していない」

というよりも、

複数の仕事を抱えたときの管理方法に課題がある

可能性があります。


上司から見えるのは、最後の「報告が遅い」という部分だけ

ここが難しいところです。

上司から見れば、

どのケースも最終的には

「報告が遅かった」

という同じ結果になります。

そのため、対応も同じになりやすくなります。

「もっと早く報告してください」

「問題があったらすぐ相談してください」

「一人で抱え込まないでください」

もちろん、これらの指示が有効なこともあります。

しかし、本人がなぜ報告できなかったのかが違えば、同じ言葉を繰り返しても改善しないことがあります。


「何をしたか」だけでなく、「そのとき何を考えていたか」

では、どうすればよいのでしょうか。

まず、問題が起きた場面を具体的に確認します。

例えば、

「なぜ報告しなかったの?」

だけではなく、

「いつ頃、予定どおり進まない可能性に気づきましたか?」

「その時点では、どうしようと考えていましたか?」

「上司に報告する必要があると考えたのは、どのタイミングでしたか?」

と確認します。

すると、

「昨日の時点で遅れには気づいていた」

「ただ、今日中には取り戻せると思っていた」

「それでも無理なら報告しようと思っていた」

ということが分かるかもしれません。

この場合、

本人は「報告を忘れていた」のではありません。

自分で対応できると判断したため、報告しなかった

ことになります。

そうすると、次に考えるべきことも変わります。


「もっと早く」ではなく、基準を具体的にする

本人が報告のタイミングを判断できていないのであれば、

「早めに」

ではなく、

どの条件になったら報告するのか

を具体的にする方が役立ちます。

例えば、

  • 期限に間に合わない可能性が出た時点
  • 当初予定から半日以上遅れた時点
  • 自分だけでは判断できない状態が30分以上続いた時点
  • 顧客や他部署への影響が出る可能性がある時点

などです。

重要なのは、この例をそのまま全員に適用することではありません。

仕事内容や責任範囲によって、適切な基準は変わります。

ただ、

「問題が大きくなったら報告する」のではなく、「問題が大きくなりそうな条件」を共有する

だけでも、報告のタイミングはかなり具体的になります。


逆に、管理職側の関わり方が影響していることもある

ここまで本人側の話をしてきましたが、もう一つ忘れてはいけないことがあります。

職場側の環境も、報告のしやすさに影響します。

例えば、

悪い報告をすると強く叱責される。

相談すると、

「それくらい自分で考えて」

と言われる。

忙しそうで、いつ声をかけてよいのか分からない。

上司によって求める報告レベルが違う。

こうした状況では、

本人に「もっと報告してほしい」と伝えるだけでは十分でないことがあります。

本人側だけではなく、

「この職場では、どのような報告を、いつ、どのように行うのか」

が共有されているかを見る必要があります。


「報告が遅い人」という評価だけでは、改善方法は見えてこない

何度も報告が遅れる社員を見ると、

「報告ができない人」

「コミュニケーション能力が低い人」

と評価したくなることがあります。

しかし、その言葉だけでは、次に何を変えるべきなのか分かりません。

自分で解決しようとしすぎているのか。

報告基準が分からないのか。

仕事の遅れそのものを認識できていないのか。

悪い報告を避けているのか。

複数業務の中で報告が抜けているのか。

あるいは、上司との間で報告に対する認識がずれているのか。

同じ「報告が遅い」でも、見るべきポイントは変わります。


表面に見える行動だけではなく、その手前を見る

管理職にとって重要なのは、

「報告を早くさせること」

だけではありません。

なぜ、そのタイミングまで報告が行われなかったのか。

そこを具体的な仕事の場面から確認することです。

行動だけを見ると、

報告が遅い

で終わります。

しかし、その一歩手前を見ると、

本人が何を認識し、どう判断し、どのように仕事を進めていたのか

が少しずつ見えてきます。

そして、改善するために必要なことも変わってきます。

次回はさらに一段広げて、

仕事ができないのではなく、「仕事の組み立て方」が違うという視点

について考えます。

報告、優先順位、仕事の見通し、相談、完了。

一見すると別々に見える問題も、実際には仕事をどのように組み立てているかを見ることで整理できることがあります。


Work Performance|JIN MEDOC

JIN MEDOCでは、「報告が遅い」「優先順位をつけられない」といった表面的な行動だけで人を評価するのではなく、実際の仕事の中で何が起きているのかという視点からWork Performanceを考えていきます。

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