心療内科/産業医・労働衛生コンサルタント/アルコール診療:医師が発信

「お酒を減らしてください」だけでは、なぜ職場の問題は解決しないのか

遅刻が増えている。

体調不良による欠勤が続いている。

以前にはなかった仕事上のミスが目立つ。

話を聞いてみると、どうやら飲酒量も増えているようだ。

こうした社員に対して、

「少しお酒を控えた方がいいのではないですか」

と伝えることがあります。

本人も、

「分かりました。減らします」

と答える。

ところが、しばらくするとまた遅刻する。

体調不良による欠勤も続く。

仕事上の問題もあまり変わらない。

すると、

「本人に改善する気がないのではないか」

と感じてしまうことがあります。

しかし、ここで一度整理しておきたいことがあります。

それは、

「飲酒量を減らすこと」と「職場で起きている問題を改善すること」は、必ずしも同じではない

ということです。


会社が困っているのは、本当に「お酒を飲んでいること」でしょうか

例えば、ある社員が毎晩飲酒していたとします。

会社として気になっているのは、その人が自宅でお酒を飲んでいることそのものなのでしょうか。

多くの場合、そうではありません。

実際に困っているのは、

  • 遅刻が続いている
  • 当日の欠勤が増えている
  • 午前中の仕事が進まない
  • ミスが増えている
  • 上司や同僚のフォローが増えている
  • 安全に仕事を任せられるのか不安がある

といった、仕事上の変化ではないでしょうか。

つまり、

飲酒そのもの

と、

飲酒に関連している可能性のある仕事上の問題

は、一度分けて考える必要があります。


「お酒を減らす」は、具体的な行動のようで意外と曖昧

「飲酒を減らしてください」

という言葉は、一見すると分かりやすい指示です。

しかし、実際にはかなり曖昧です。

本人からすると、

「毎日3本飲んでいたものを2本にした」

のであれば、

“減らした”

と考えるかもしれません。

一方、会社側が期待していたのは、

「遅刻しなくなること」

だったかもしれません。

すると、

本人
「お酒は減らしています」

会社
「でも遅刻は続いています」

というすれ違いが起こります。

どちらも間違ったことを言っているわけではありません。

ただ、見ているゴールが違うのです。


「飲酒量」が改善しても、「仕事」が改善するとは限らない

仮に飲酒量が減ったとしても、それだけで仕事上の問題がすべて解決するとは限りません。

例えば、

夜遅くまで飲む習慣そのものは変わっていない。

飲酒量は減ったが、睡眠時間は短いまま。

飲酒以外にも強いストレスや疲労がある。

仕事量が多く、もともと業務が回っていない。

欠勤を繰り返したことで、仕事そのものが滞っている。

こうした状況では、

「飲酒量が減った」

という変化だけでは、会社が困っている問題は残る可能性があります。

逆に言えば、会社としては、

「飲酒量が何杯から何杯になったか」だけを追い続けても、仕事上の問題が改善したかどうかは分かりません。


会社が確認したいのは「仕事がどう変わったか」

ここで重要なのが、第1回の記事でも触れた、

職場で確認できる事実

です。

例えば、

以前は月4回あった遅刻がどうなったのか。

突発的な欠勤は減ったのか。

仕事上のミスは減ったのか。

期限どおりに業務を完了できているのか。

周囲の社員によるフォローは減ったのか。

安全に仕事を継続できているのか。

こうした変化を見ることで、

実際に職場の問題が改善しているのか

を確認できます。

「お酒を減らしましたか?」

だけではなく、

「仕事はどう変わりましたか?」

を見るということです。


会社が「飲酒管理」をする必要はない

職場でアルコールの問題が疑われると、

「会社として飲酒量を管理した方がよいのではないか」

と考えることがあります。

しかし、原則として会社が本人の日常生活すべてを管理するわけではありません。

もちろん、安全性や健康上の理由から必要な確認を行う場面はあります。

一方で、

毎日何時から飲んだのか。

何杯飲んだのか。

自宅にお酒があるのか。

といった私生活上の細かな行動まで会社が管理し続けることには限界があります。

それよりも企業として重要なのは、

職場で求められる状態が保たれているか

を見ることです。

例えば、

決められた時間に勤務できている。

安全に業務を行えている。

必要な仕事を遂行できている。

周囲への過度な負担が生じていない。

こうした点は、会社として確認できます。


一方で、飲酒そのものへの支援が必要なこともある

もちろん、仕事上の問題だけを見ていれば十分という意味でもありません。

本人自身が、

「飲酒を減らしたいのに減らせない」

「飲まないと眠れない」

「体調に影響している」

などと感じている場合には、健康の問題として適切な支援が必要になることがあります。

その場合、管理職だけで抱えるのではなく、

産業医や産業保健スタッフへの相談。

必要に応じた医療機関への受診。

といった対応を考えます。

ここで重要なのは、

会社が治療をするわけではない

ということです。

医療が担うことと、会社が担うことは分けて考える必要があります。


「飲酒」と「仕事」を一緒にしてしまうと話が複雑になる

例えば、

会社側が、

「アルコールをやめてください」

とだけ伝えたとします。

すると本人にとっては、

「自分の私生活に会社が口を出している」

と感じる可能性があります。

一方で会社側は、

「仕事に影響しているのだから当然だ」

と考える。

こうして、

お酒を飲む・飲まない

という議論だけになってしまうと、本来確認したかった仕事上の問題が見えにくくなります。

そのため、話を分けます。

飲酒について

本人の健康状態はどうなのか。

必要な支援や医療はあるのか。

仕事について

勤怠はどうなのか。

業務遂行への影響はどうなのか。

安全性はどうなのか。

必要な就業上の対応はあるのか。

この二つは関係しています。

しかし、同じ問題ではありません。


「飲酒を減らすこと」が目的になっていないか

職場でアルコールが話題になると、いつの間にか、

「本人にお酒を減らしてもらう」

ことそのものが目的になることがあります。

しかし、企業の目的は本来そこではありません。

会社として考えたいのは、

本人が安全に、安定して仕事を続けられる状態にあるか

ということです。

そのために飲酒への対応が必要な場合もあります。

治療が必要な場合もあります。

仕事上の配慮が必要な場合もあります。

反対に、飲酒以外の要因を考えなければならない場合もあります。

だからこそ、

「お酒を減らしてください」

という一つの対応だけで問題を完結させないことが大切です。


管理職や人事が最初に整理したい3つのこと

飲酒の影響が疑われる社員について考えるとき、次の3つに分けると整理しやすくなります。

1.職場で何が起きているのか

遅刻、欠勤、ミス、期限遅延、安全上の問題、周囲への負担など。

まず具体的な事実を整理します。

2.健康上の問題が考えられるか

本人の体調に変化があるのであれば、必要に応じて産業保健につなぎます。

管理職だけで原因を判断する必要はありません。

3.仕事上、何を改善する必要があるのか

例えば、

遅刻を減らす。

安定して出勤する。

安全に業務を行う。

期限内に業務を遂行する。

などです。

このゴールを明確にしておくと、

「お酒を減らしたか」

だけでなく、

実際に仕事上の問題が改善したか

を見ることができます。


アルコールの問題を、「お酒」だけで考えない

職場でアルコールの影響が疑われると、どうしても飲酒量に目が向きます。

もちろん飲酒について確認することが必要な場面もあります。

しかし、企業として重要なのは、

「どれだけ飲んでいるか」だけではなく、「仕事に何が起きているか」

を見ることです。

そして、

飲酒への対応は本人や医療とともに考える。

仕事への対応は企業として考える。

必要なところで、その二つをつなぐ。

この整理ができると、

「本人にお酒を減らしてもらえば解決する」

という考え方から、一歩進むことができます。

次回は、

本人が「飲酒は問題ない」と言うとき、会社はどう対応すればよいのか

について考えます。

アルコールの問題では、本人と会社の認識が一致しないことも少なくありません。

そのとき、会社は本人に「飲酒問題を認めてもらう」必要があるのでしょうか。


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