心療内科/産業医・労働衛生コンサルタント/アルコール診療:医師が発信

仕事ができないのではなく、「仕事の組み立て方」が違うという視点

「報告が遅い」

「優先順位をつけられない」

「複数の仕事が重なると抜け漏れが増える」

「分からないことがあっても相談しない」

こうした問題が続くと、つい、

「この人は仕事ができない」

という評価になってしまうことがあります。

もちろん、実際に業務遂行上の課題がある場合もあります。

ただ、その一言だけでは、

どこで仕事がうまくいっていないのか

までは分かりません。

仕事は、単に「できる・できない」で決まるものではありません。

実際には、依頼を受けてから仕事を完了するまでに、いくつもの判断と行動があります。

その途中のどこかでつまずいている可能性があります。


「仕事ができない」という言葉は、かなり大きすぎる

例えば、

「この人は仕事が遅い」

とします。

その理由は一つではありません。

依頼内容を正確に理解できていないのかもしれません。

優先順位を決めるのに時間がかかっているのかもしれません。

一つの仕事に時間をかけすぎているのかもしれません。

複数の案件を同時に進めると、他の仕事が抜けてしまうのかもしれません。

遅れていることには気づいているが、相談できないのかもしれません。

結果としてはすべて、

「仕事が遅い」

です。

しかし、必要な対応は同じではありません。


仕事には「途中」がある

仕事を依頼されてから完了するまでを、少し分解してみます。

例えば、

求められていることを理解する

何から着手するか決める

必要な時間や労力を見積もる

仕事を実行する

問題や遅れに気づく

必要に応じて報告・相談する

求められる期限と品質で完了する

という流れがあります。

実際の仕事はもっと複雑ですが、大まかにはこのような複数のプロセスで成り立っています。

最終的に成果物だけを見ると、

「遅れた」

「ミスがあった」

「期待した内容ではなかった」

となります。

しかし、その結果だけを見ても、どこで問題が起きたのかは分かりません。


例えば「期限に間に合わない」でも、原因は違う

同じ「期限に間に合わない」という問題でも、仕事の途中を見ていくと違いが見えます。

ケース1:依頼内容の理解に時間がかかる

本人は何を求められているのか十分に理解できていない。

ただ、質問せずに自分なりに考え続ける。

結果として着手そのものが遅れます。

この場合、

「もっと早く仕事をしてください」

だけでは改善しにくいかもしれません。


ケース2:優先順位が決められない

複数の仕事があると、

「どれからやればいいか」

で迷い続ける。

とりあえず目の前のものから手をつける。

その結果、本来優先すべき仕事が後回しになる。

本人は一日中仕事をしているのに、重要な案件が進んでいないことがあります。


ケース3:一つの仕事に時間を使いすぎる

本人は、

「できるだけ良いものを出したい」

と考えています。

そのため、細部まで何度も修正します。

しかし、その仕事に時間を使いすぎた結果、別の仕事が遅れます。

本人からすると、

真面目に取り組んでいる

可能性があります。

一方で、上司から見ると、

時間配分がうまくできていない

という問題になります。


ケース4:遅れには気づいているが相談しない

本人は、

「このままだと間に合わないかもしれない」

と分かっています。

しかし、

「もう少し頑張れば取り戻せる」

と考えます。

その結果、報告が遅れます。

この場合は、

仕事の速度だけではなく、相談するタイミングの判断にも問題があるかもしれません。


同じ「仕事が遅い人」でも、必要な支援は違う

ここまでを見ると、

「仕事が遅い」

という一つの評価だけでは不十分なことが分かります。

必要なのは、

どの段階で仕事が止まっているのか

を見ることです。

依頼内容の理解なのか。

優先順位なのか。

時間配分なのか。

実行なのか。

問題への気づきなのか。

報告・相談なのか。

完了までの管理なのか。

ここが分かると、対応も具体的になります。


「優先順位をつけて」は、本当に解決策になっているか

管理職としては、

「優先順位を考えて仕事してください」

と伝えることがあります。

ただ、本人にとっては、

優先順位をどう決めればよいのかが分からない

可能性があります。

重要度なのか。

期限なのか。

顧客影響なのか。

上司の期待なのか。

他部署への影響なのか。

判断基準が本人の中で整理されていなければ、

「優先順位をつけて」

という指示だけでは、次も同じことが起こるかもしれません。

つまり、

正しい行動を伝えること

と、

その行動ができるようになること

は別です。


「もっと相談して」だけでも同じことが起こる

「分からなかったら相談してください」

これもよく使われる言葉です。

しかし、

どの程度分からなければ相談するのか。

何分考えて分からなければ相談するのか。

自分なりの案を持ってから相談するのか。

問題が起きそうな段階で相談するのか。

本人と上司で、その基準が一致していないことがあります。

第2稿で扱った「報告が遅い」という問題も、実は仕事の一部分です。

報告だけを切り取るのではなく、

その手前で本人が何を認識し、どう判断していたのか

を見る必要があります。


仕事の「結果」だけでなく「プロセス」を見る

企業では、どうしても結果が評価されます。

期限に間に合ったか。

ミスがなかったか。

必要な成果を出したか。

もちろん、結果は重要です。

ただ、改善を考えるときには、

その結果に至るまでに何が起きていたのか

を見ることが役立ちます。

例えば、

「期限に遅れた」

という結果に対して、

「もっと早くやってください」

で終わるのではなく、

  • 依頼を受けた時点で、何を求められていると理解したのか
  • どの仕事を優先すると判断したのか
  • どの程度時間がかかると見積もったのか
  • いつ遅れに気づいたのか
  • その時点でなぜ相談しなかったのか

を確認します。

こうすると、

仕事のどこで詰まっていたのか

が少しずつ見えてきます。


上司が細かく管理するほど、問題が見えなくなることもある

興味深いのは、管理職がフォローを増やすことで、本人の仕事上の課題が見えにくくなることがある点です。

例えば、

毎朝、上司が優先順位を決める。

昼に進捗を確認する。

遅れていれば、次にやることを指示する。

提出前に内容をチェックする。

こうすれば、仕事は進みやすくなります。

しかし同時に、

本人が、

自分で優先順位を決められるのか。

遅れに自分で気づけるのか。

必要なタイミングで相談できるのか。

が見えにくくなります。

上司の支援によって仕事が成立しているからです。

これは支援が悪いという意味ではありません。

重要なのは、

どこまで本人ができていて、どこから上司が補っているのか

を分けて考えることです。


「本人の能力」だけを見る必要もない

ここでもう一つ重要なのは、

仕事がうまくいかない原因を、すべて本人だけに求めないことです。

例えば、

依頼内容が曖昧だった。

期限や品質の基準が共有されていなかった。

途中で優先順位が何度も変わった。

相談しにくい雰囲気がある。

仕事量そのものが過剰だった。

こうした環境では、本人だけを変えても改善しないことがあります。

だからこそ、

本人の仕事の進め方

と、

仕事の与えられ方や職場環境

の両方を見る必要があります。


「何が苦手か」より、「どこで崩れるか」

「報告が苦手」

「マルチタスクが苦手」

「優先順位が苦手」

という言葉は便利です。

ただ、それだけではまだ大きな括りです。

例えばマルチタスクが苦手と言っても、

仕事量が増えると優先順位が決められなくなるのか。

途中で新しい依頼が入ると元の仕事を忘れるのか。

一つの仕事に集中しすぎて他が見えなくなるのか。

遅れに気づいても相談しないのか。

によって違います。

そのため、

「何が苦手か」だけではなく、「どのような条件になると、仕事のどこが崩れるのか」

を見ると、より具体的になります。


「仕事ができない人」から、「仕事のどこで困っている人」へ

「仕事ができない」

という言葉は、とても簡単です。

しかし、その言葉だけでは改善につながりにくいことがあります。

それよりも、

要求を理解するところで困っている。

優先順位を決めるところで困っている。

時間配分で困っている。

問題に気づくところで困っている。

報告・相談の判断で困っている。

と分けて考えた方が、何を変えればよいのかが見えやすくなります。

そして、これは本人にとっても同じです。

「自分は仕事ができない」

という大きな自己評価ではなく、

「自分はこの条件になると、この部分で崩れやすい」

と理解できれば、対策を考えやすくなります。


仕事のパフォーマンスは、一つの能力ではない

仕事には、

理解する。

判断する。

計画する。

実行する。

気づく。

相談する。

調整する。

完了する。

という複数の要素があります。

どれか一つの問題が、最終的には

「仕事が遅い」

「報告がない」

「ミスが多い」

という形で現れることがあります。

だからこそ、表面に見える結果だけではなく、

仕事がどのように組み立てられているのか

を見ることが重要です。

これが、JIN MEDOCがWork Performanceを考えるうえで大切にしている視点の一つです。


ここから、もう一段深く考える

ここまでの3本では、

第1稿
特定の社員へのフォローに、なぜ管理職の時間が使われ続けるのか。

第2稿
同じ「報告が遅い」でも、その背景は人によって違う。

第3稿
表面的な問題を、仕事のプロセスに分解して考える。

という順番で見てきました。

ここから先は、

同じ人でも、仕事や環境、その日の状態によって、なぜパフォーマンスが変わるのか

まで考えていきます。

仕事上の問題は、本人の能力だけで決まるとは限りません。

次回からは、人と仕事の関係をもう少し広い視点から考えていきます。


Work Performance|JIN MEDOC

JIN MEDOCでは、仕事上のパフォーマンスを単純な「できる・できない」だけで評価するのではなく、仕事のどこで、どのような条件で問題が起きているのかという視点から考えます。

人を評価するためではなく、人と仕事の関係を理解し、より良く働ける状態を考えるために、Work Performanceを探究していきます。

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